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mixiじゃない人には何のことだかさっぱりですよねー。っていうか、この題名強制型だとね、毎日の楽しみをちょっぴり削がれる。題名考えるの、結構好きなんだよ。
このバトンはmixiユーザーさんだけにのみ有効としてくださいな。 ごま、よかったね。君の試練は免れたよ。 ☆ルール☆ 「マイミク解除します」をタイトルにする! 地雷です。踏んでしまった人は素直に答えましょう。 マイミク様は足跡つけた瞬間に見たと判断されます お住まいは? 包子山で。嘘です。大分です。 血液型は何ですか? B型。でもみんなにはO型に見られることが多い。 チャームポイントはどこですか? 赤眼鏡――というのは自分では嫌なので、あえて、長い指。 ペット遍歴を教えてください ハムスターを二匹、今まで飼ったことがあります。亀を水死させました。現在は兎一匹に支配されています。 好きなものを答えて 季節 春。花粉症にはならない。っていうか、毎日が花粉症のようなものなので、最早気にならないのです。 場所 大学の社会福祉コース専用の談話室。 自宅の自室のテレビの前かパソコンの前。 要はヲタク活動の出来る場所。 映画 バッテリー、ブレイブストーリー、ハウルの動く城 ドラゴンボールの映画のDVDが某アニメチャンネルで25000円くらいで売っていた。金があったら、多分買ってた。見たいんだ!!本当に、見たくてしょうがない。 本 バッテリー、ハウルシリーズ、ブレイブストーリー(え) キノの旅、アリソン、我が家のお稲荷さん、キーリ 今夜は眠れない、夢にも思わない 久しぶりに本棚の小説を整理したんだけど、読み直そうかなと考え中。新しいのを買うのもいいけど、好きな本を読み返すのも大切だと思うのよね。 漫画・アニメ これ語ったら、きりがないのに。 アニメと漫画どちらも好きなのは ドラゴンボールシリーズ、鋼の錬金術師、Loveless、ギャグマンガ日和、おおきく振りかぶって、桜蘭高校ホスト部、ハンター×ハンター、カードキャプターさくら、英国恋物語 エマ アニメだけ好きなのは 地獄少女、ケロロ軍曹、シティーハンター、The world golden eggs、 ローゼンメイデン 漫画だけ好きなのは blood+、エウレカセブン、フルーツバスケット、荒川アンダーザブリッジ、ピアノの森 今日はこんなところで勘弁してやろう(黙れ) キャラクター 孫悟空、孫悟飯、孫悟天……孫家が大好きです。あれ?そういうキャラクターじゃなくて?? あ、あの、女の子らしく言えば、サンリオのシナモが好きです。かわゆい。 でも、こういう系統なら、ケロロもいけるんじゃないか!?ギロロ、クルル、ドロロの三人が、その時に大好きなアニメやゲームによって(それに出演する声優さんによって)ころころ変わっちゃう。今はもちろん、ドロロです。だってトラ……(以下略) テレビ番組 んー。テレビ、最近、まともに見てない。部屋に籠もってDB見てるしなあ…(このヲタクめ) あ、お気に入りのドラマは山田太郎物語かなあ……。二宮君、かわゆい。 色 黒。服もそうだけど、性格的にも。 言葉 冷や飯。(意味の分かる人は絶対にいない。いたら握手する) タイプ(男) 同じ歩幅で歩いてくれる人 タイプ(女) かわゆい人 嫌いなものを答えて 季節 冬。動けなくなる。まじで。 場所 場所?うーん……リンガー○ット。バイト先です。 映画 基本的に実写の映画をわざわざ映画館に行ってみようとは思いません。 バッテリーは別ですけど!今更やけど、鬼太郎みたかったorz 本 んー。古本屋さんで買ってきた、超面白くなかったラノベ。 時々ね、はずれがある。ラノベは。 漫画・アニメ ツンデレと公言するアニメ。ツンデレは見る側の勝手な妄想によって、成立するものだ。 キャラクター ラディッツ。悟空の兄貴。 いや、嫌いじゃないけど、何か気に入らない。うん。ファンの人、ごめんなさいorz テレビ番組 芸恋リアル系のあれが嫌いでした。 色 ううー……絵の具をごちゃまぜにした色? 言葉 中国語(笑)発音まで覚えなきゃいけない……あれさえなければ、好きなんだよ。ほんと。 タイプ(男) 自分が大切な人。 タイプ(女) あからさまにこっちに嫌いオーラ出してる火と。 あなたの座右の銘を教えてください え……と……「記憶しか残らないんですよ」 今、思いつきました。つか、思い浮かびました。某ゲームの名言(そうか?) カラオケは好きですか? そりゃもう。でも、一般ピーポーとはあまり行かない方がいいかもね。 私のことをよく理解した人同士じゃないと行かない。 好きならあなたの18番は? タッチ。音程が丁度良いんですよ。もしくは残酷な天使のテーゼ。音程、ともに、テンションも丁度良い。つか、本能がかき立てられるんで、かなり乗って歌える(キモイな) 今一番欲しいものはなんですか? うぃい。Wiiです。 プチ野望、してみたいことはありますか? 東京に行きたい。何するって、そりゃあ……祭りに。 有名人や動物に似ていると言われたことはありますか? 妹に南海のやまちゃんと言われた……orzあそこまではキモくない!!!!本気で、嫌です。 常に側にあるもの、手放せないのはありますか? 携帯、パソコン、妹(一緒にしてごめん) 今一番の心配事は? パソコンのCD入れるところが開かなくなったこと、プリンタが壊れたままだということ 苦手なものは? 目が回るように忙しい仕事(え) 行ってみたい国は? 東京(国じゃない) 日本がイイよ、日本が。 なげえなあ、と思ったら、自分が長く答えてるだけだったよ。あっはっはっは。 今日はバイトでした。またきた、迷惑外国人の集団。いや、人数は5人くらいだけど(この前はくそ忙しいときに11人)、お会計の時。 恋「(お会計は)別々にしますか?」 外「いいです」 恋「それでは、お会計3180円になります」 外「はい」 ジャラ。 恋(じゃら?) 外「丁度でお願いします」 ………………………………………え。 100円玉が一杯!!!?えええええええええ!五百円玉×2、百円玉×19、五十円玉×5枚、十円玉×3枚。計29枚の硬貨。 どんだけーーーーーーー!!! こんなんだったら、ばらばらで払えよと思います。数えるの、大変だった。本気で。あとで母に聞いたら、法律である一定の枚数以上だったら、拒否もできるそうです。…まあ、たかだかスイカバー買うのに、びんぎっしりの一円玉とか困るよな。 外国人を差別する気はないんですけど、時々そういう常識外れなことをされるのは嫌です。っていっても、現代の若者に常識という言葉はほとんどないのですが。 私は絶対、外国には行かない。外国の常識を学ぶのは面倒だ(非国際社会人)きっとわしは相手国にも迷惑だよ、うん。 そういえば、昨日から某人が退院し、そして今日、病院へと帰って行きました。家がイイとかなりぼやいていた様子。多分、2、3日したら、完全に退院になるのでは?と皆で話してます。 装具みました。率直な感想。 すげー鎧じゃん!(え) でも、夏だから、さぞかし辛かろう。実は某人、背骨一つがぺっちゃんこになっており、それで装具をつけているわけなんですが。前屈みに絶対になっちゃいけないそうなので、もの凄く不便そう。できるだけの手伝いはしてあげようとは思ってますが、何せ、技術があるわけではないので、してやれることが少ない。申し訳ない。 1日でも早く、完治することを祈ってます。 辛いけど、頑張ろうぜ。某人。 さ、明日はごまと二人でケーキバイキング行った後、夕方からは優雅、ゆず(マイミクの人)と合流し、飲みに行きます☆何かいよいよ夏休みって感じ☆ひょっほーい(煩) さて、夏休みだし。今日は、一つ短編をあげます。 一年くらいにかいた、そして途中で放棄したままの、短編集の序章です。長文注意!多少カオス注意! ……そういえば、原稿すすんでないな………やらなきゃ。 ここあ。〜彼と彼女の単語帳〜 何か、親子ではないけど、親子みたいなほのぼの話書きたいなあ、と思い、一年くらい前にかいたもの。修正してませんので、文章とか変なとこあります。 とりあえず、全然ロリコンに持って行こうとは考えていなかったです。でも、本性が本性なので、仕方ないと思って読んで下さい。私はほのぼのが書きたかっただけなんだ!!!(分かったよ) 何も知らない子供に色んなことを教えていく、成長過程を書いていきたくて、何か辞書風にしてます。 第0話 【ここあ】……彼の思い出全て。 私のマスターはおじいさんです。今でこそ足腰が弱くなったやら、白髪ばっかりになってしまったやら、老化を嘆いてはいますが、昔は戦争の英雄さんだったのです。数々の戦争で活躍して、そのお陰で今、裕福な生活を送っています。そして私はそんなマスターに仕えている、ただのお手伝いです。 「マスター、お茶を淹れましょうか?」 ダイニングの窓際に置いてある安楽椅子が、マスターの特等席であります。今日もマスターは日がな一日、読書をしていました。もうすぐ夕日の見えてくる頃、その時間帯がマスターのお茶の時間。お掃除を終えた私は、ダイニングに顔をのぞかし、いつもどおりの質問をしました。マスターもいつもどおり、本から顔も上げずに答えます。 「ココアを頼むよ」 予想していた答えではありましたが、私は思わず苦笑してしまいました。 「またココアですか」 「……好きなんだ」 マスターはいつもそう言って、ココアを頼むのです。コーヒーやグリーンティも飲むものの、お茶の時間は決まってココアなのです。果たしてココアはお茶なのか。私はいつも疑問に思いますが、マスターが望むことに異存はありません。私は「了解しました」と、リビングとカウンターで繋がっているキッチンへと向かうことにします。 私はまず、お鍋にミルクを注ぎ、火にかけました。マスターは猫舌ですから、沸騰しないように注意しなければなりません。けれど冷蔵庫で冷えたミルクがすぐに温まるわけもなく、私はお鍋の前でまるで番人のようにじっとそこで立っているのです。正直、暇であります。カウンター越しにマスターを見ると、変わらず、読書中でした。しかし、マスターが読んでいるそれは、私の記憶の中にあるだけでも、既に十回は読んでいるものでした。きっと、台詞くらいは覚えているでしょう。そのせいなのか、どことなく退屈そうにも見えます。 そんな時、マスターとお話しするために、私はある質問をするのです。 「どうしてマスターは、ココアが好きなんですか?」 何度も、何度もしたことのある質問でした。マスターは少し不思議そうな顔をして、本から顔を上げます。 「それ、前にも話さなかったかね?」 うーん、鋭い。マスターはお年の割りに、記憶力はしっかりしています。けれど、大丈夫。私は、その時のかわし方を知っていますから。 「話していませんよ。きっと、誰かと間違えているんですよ」 何食わぬ顔で嘘をつきます。そう、ありもしない、マスターの耄碌のせいにするのです。マスターは後頭部をポンポンと左手で叩きながら、困ったように笑います。 「そうか……すまないね。年をとると、どうも物覚えが悪くて」 「いえいえ」 マスターは記憶力こそしっかりしてはいますが、無駄なことは特に思い出そうとしません。だから、これでいいのです。 丁度、ミルクがいい温度になってきて、私はそれをマグカップの中に注ぎました。マグカップの中には既にチョコレート色の粉末が入っていて、それは暖かいミルクにすぐに溶け、白色だったミルクは、桜にも似たほんのりと淡いココア色に染められました。それと同じタイミングで、マスターは本を閉じました。さあ、いよいよお話の始まりです。 マスターは窓の外、けれど何かを見るわけではなく、どこか違う、遠くの世界を見ているようでした。 「……まあ、ココアと言う少女と昔、暮らしていた時期があってね。単純な理由さ。彼女を思い出すから、ただ、好きなだけだよ」 「それは……何だかロマンティックな恋物語のようですね」 素直な感想でした。それを聞くたび、私は本当にそう思うのです。けれど本当はそんな甘いものではないとも、私は知っているのです。きっと残念そうに、マスターは首を横に振るでしょう。 「いいや……」 思った通り、マスターは残念そうに首を横に振りました。そして言います。 「そうだったら、いいのになあ……だが、違うんだ」 「何が、違うんです?」 そう訊ねながら、私はマスターにココアを渡しました。マスターは小さく「ありがとう」を言って、受け取ります。そしてココアを一口、ほっと一息、隣で見守っている私を見上げます。 「何せココアは?戦人形?だからね……そして私は彼女を一度、殺したことがある。それを聞いただけでも、ロマンティックには聞こえなくなるだろう」 そう肩をすくめて、マスターは長い独白に入ったのでした。 * それはまだ、戦争が終わる前の話。もっと言うと、終わる直前の話である。 とある軍の領域に、その軍の所属ではない金髪の真面目な同僚と黒髪の若者――この時はまだ未来の英雄だったハルトの二人は隠れていた。彼らは今、敵地のど真ん中にいるのだ。 敵軍のキャンプ村が数百メートルほど先に見える崩れかけた建物に身を潜め、もうかれこれ半日は経つ。ここは敵の動きがよく見え、かつ上手く身を隠すことの出来る格好の場所ではあるのだが、何せ戦場、建物が綺麗な形を保つはずもなく、天井は瓦礫となって、床に散らばっていた。そう、上を見上げれば青空――直射日光が降り注ぎ、非常に暑いのである。それでさっきから、二人は汗を拭う仕草が絶えない。 そんな暑さのせいで、話すのもままならず、濁るような沈黙がその場に沈殿していた。その沈黙は三時間ほど続いているのだが、とうとう耐え切れないという様子で同僚が、沈黙を破った。 「……おい」 「んあ?」 ハルトはだるそうな声で、同僚の呼びかけに答える。 「その姿、どうにかならないのか。敵地に乗り込んだ兵士の格好に見えないのだが」 敵地に乗り込んだ兵士の姿とは、まさに同僚の格好を言うのだろう。きっちりと国軍の迷彩色の戦闘服に身を包み、半日経っても切れない緊張の糸で常に敵のキャンプの見えるガラスのない窓からライフルを構えている。若いながらも、下手な上官よりは兵士の鏡になれるかもしれないと、ハルトは思った。そしてそんなハルトは、兵士の鏡の彼に指摘されたように、相応しくない格好と態度である。まず戦闘服の上着を着用しない。黒のタンクトップ姿だ。そして寝癖なのか、わざとなのか分らないぼさぼさの黒髪。少し長い前髪は切ればいい話なのに、何のこだわりなのかは知らないが、ヘアピンで留めている。そんな格好の男が、仕事を真面目にするはずもなく、ライフルは彼の傍らに、窓からでさえ背を向けて、胡坐を掻いている様だ。誰が見ても、この彼の姿には呆れるだろう。 同僚は構えていたライフルを慎重に傍らに置いてから、放り投げられたハルトの戦闘服の上着を拾い、持ち主に差し出した。 「これぐらい、着ていろ」 「暑いんだよ」 「暑くても、だ」 「任務遂行の前に、暑さで死んじまう」 「それぐらいで死んでいたら、ただの弱者だな。使い物にならん」 「……」 ハルトはむっとしたように、同僚を睨みつけた。「そこまで言うかよ、フツー」と、文句の一言でも言いたかったが、どうせ彼のことだ。また言葉巧みにかわしてハルトの立場を更に悪くするだけだろう。そうなる前に、素直に従えばいいのだ。実に不本意だが。 ハルトはひったくるように同僚から上着を受け取り、無言でそれを着用した。暑い。途端に汗の出るスピードが上がる。ハルトは不満そうな表情で同僚を睨みつけていたが、同僚は涼しい顔で再びライフルを構えた。ハルトはほんの少しの反抗心で、ライフルは傍らに置いたまま、やはり胡坐を掻いたままだった。 そして呑気に話し出す。 「お前、この任務が本当に成功すると思うか?」 「いや」 同僚は案外、あっさりと答えてくれた。ハルトは両手を後頭部の後ろで組みながら「だよなー……」と、ため息。 「だって、あれ相手に若い命、たった二人分だもんな。実験だとしても、いい情報は得られないだろうよ」 「それでも、俺達は従わなきゃならない」 「固いな。それじゃあ、損するぜ」 「……」 同僚は何も言わなかった。図星で罰が悪くて何も言えないなんてことではなく、ただ単に呆れているだけだろう。ハルトは別にそれでも構わなかった。勝手に話を進める。 「俺は死ぬ気はないから。この国に命懸ける気もない」 「戦場の真ん中にしては、不謹慎な言葉だな」 「まあね」 褒められたわけでもないのに、ハルトはへらへらと笑った。同僚のため息が聞こえる。 それきり、会話はまた途切れた。暑いと、何をするのも楽ではない。まして、こんな敵地の真ん中でこのように隠れているのだ。余計、なけなしの神経が削られる。ハルトは自分が忠実に任務を果たす気はなかったが、せめて邪魔ぐらいはしないことを決めた。だから、直射日光で茹った脳みそで、別のことを考える。 そうするとある一つの暇つぶしな思考にたどり着いた。 昨日のアレ、凄かったな。 それはハルトと同僚が、この敵地に来る前に見てきたものの事だった。暇つぶしになりそうなのは、それぐらいしか思い浮かばなかったのだ。他の事は、暇つぶしにもならないほど下らないものばかり。思い出すだけで、嫌悪やら苛立ちなど、不の感情が湧き上がってくる。それにしてみれば、昨日は随分と久しぶりに、感動したものだ。 丁度、昨日の夜明けの時だった。まだほんの少ししか夜は明けていないというのに、そこはそれなりに明るかった。なぜならば、二人の目の前に広がるのはむき出しになった赤い地面ではなく、灰色の瓦礫ばかりが散らばる地面でもなく、滑らかな波を帯びた真っ白な地面だったからだ。しかし、それは雪ではない。それはどこまでも、どこまでも、まるで果てがないような白い砂漠。何の汚れもない場所だった。敵地に向かっていたハルトは目の前に広がる広大なそれに思わず歓声を上げた。 「おわー、すげー! 見ろよ、本当に真っ白だぜ! 近くで見たのは初めてだ」 「お前はガキか。ほら、立ち止まらず歩け。明日の夜明けまでには到着しなければいけないんだからな」 「ちぇ……本当にお前は無感動な奴だよなあ」 立ち止まりそうになっていた踵を同僚に軽く蹴られ、渋々歩き始める。しかし視線は、白い景色に奪われたままだった。 「……全く、これの何がいいんだ。俺達はこれのせいでこんなことをしないといけないと言うのに」 同僚ははしゃぐハルトの後ろで不機嫌に呟いていた。そんな彼の気持ちも、いつもは「固いなあ」と笑ってやるのだが、今は分らなくもない。冷静になってみると、感動した自分は何て愚かだとも思う。 初めて目にするこれは、皮肉にもこの戦争の原因となるものだった。 塩の砂漠、ハルトの国ではそう呼んでいる。その名の通り、白い塩だけで構成された砂漠のことである。なぜ、あれだけの塩が海でもないそこに存在しているのかは、未だ解明されていないが、昔、この一体は海だったとか、地下に大量の海水が溜まっているなど、様々な仮説は学者達の間で上がっている。とにかく、それはハルトの国と敵国の間にあり、今起こっている戦争の原因だ。 そもそもハルトの国と敵国は、正反対の性質を持った国同士であった。敵国は信仰を重んじる、言ってみれば古い慣習に執着する国。それに対し、ハルトの国は信仰など、そんな心の安らぎは当の昔に捨て、新しい技術で日々進歩する国であった。何かきっかけがあれば、すぐにでも対立が出来る。そんな危うい関係である。今まで戦争が起こらなかったのは、ある意味で奇跡に等しいが、その裏側では戦争が面倒臭いと思うお偉いさん達の気持ちもあった。 そんな均衡が破られたのは二十数年前のこと、今の大統領になってからだった。彼は特にこの国を豊かにすることに拘泥していた。そのため、今まで必ず戦争を引き起こしてしまうからと触れなかった塩の砂漠に目をつけたのだ。 「あれだけの大量の塩を輸出できれば、多大な財源になるに違いない」 こちら側がそう勝手に言い出し、当時はまだ、ただの隣国だった王は怒った。 「あれは我々の神の聖地であり、何人たりとて侵させはせぬ」 まるで自分の領地が奪われるような口ぶりだが、塩の砂漠はどちらの国でもない緩衝地帯であった。しかしそれは、敵国は聖地であり、滅多に入らない所であって、我が国も戦争を避けようとし、お互いが手を出さなかったの話だ。緩衝地帯という、生ぬるくて曖昧なものが、いつまでも平和を保つわけはない。結局は取り合う玩具になってしまった。そうして戦争の引き金はいとも簡単に引かれたのだ。 戦争は二十年前からずっと、始まったり、終わったりを繰り返している。 「……初めて見て思ったけど、ここは本当に聖地なのかも」 ざくざくと白い塩を踏みしめながら、ハルトは言った。こんな戦いも忘れてしまいそうなほど、そしてこんな汚い靴で踏みしめるのも戸惑うほど純粋な白は、どこか聖なるものを感じるのだ。しかし同僚の反応は冷たかった。 「俺達にはそんなこと、関係ないだろう。ただ、この国が負けないために戦うだけだ」 何だか悔しかったハルトは、一言だけ返した。 「本当、お前は堅物だね」 同僚が胸ポケットから何か取り出す音で、ふとハルトは現実に引き戻された。見ると、彼は懐中時計を出しているところだった。 「何?」 ハルトが訊ねると、 「……あと、十分か」 わけの分らないカウントダウンをされた。ハルトは眉を怪訝そうに顰める。くるりとこちらを見て、同僚もまた眉を顰めた。 「お前、本当に任務を遂行する気がないらしいな。……ヒトサンサンマル、奴が動き出す時間。それ通りに来るのなら、あと十分だ」 「ああ、はいはい、なるほどね。報告、ご苦労」 「……」 軽く受け流したハルトに、同僚は半ば諦めたような表情で、それから再びスコープを覗き込むことだけに専念し始めた。彼が時計の針を逆に見間違えていなければ、もうすぐバッドエンドでもハッピーエンドでも終幕が訪れ、彼の横顔も見なくて済むようになる。ハルトも傍らで置物状態にあったライフルを引き寄せた。 十三時三十分。それが奴が動き出す時間である。奴とは、今回ハルトと同僚が遂行すべき任務である暗殺のターゲットのことだ。あと十分で任務が遂行されるかもしれない。そう思えば、誰でも落ち着けるはずがない。ハルトはほんの少しだけ、表情を引き締める。同僚の場合、常に緊張しすぎだとは思うが、こんな時ぐらいはそれなりに緊張するのだ。 「…………」 緊張して、辺りの空気が三分前とは全く違うものに変わっていたことにようやく気づいた。その原因の同僚は最早、緊張を超越したようで、殺気立っているようにも見えた。ハルトが右頬の辺りで感じるぴりぴりとした空気は、それなのだろう。同僚は微動だにせず、じっと息を潜め、その時を待っていた。それを横で感じながら、落ち着かなかったハルトは、辺りをきょろきょろと見渡したり、もっと前にすればよかったライフルの点検などを始めた。いつもは「落ち着かない奴め」と嫌な顔をする同僚は、何も言わなかった。 それが物足りないと言うわけではないが、何となく我慢の出来なかったハルトは口を開く。 「なあ、もしも本当に時間通り、奴が来たら?」 「もちろん、暗殺だ」 「……あれが攻撃してきたら?」 「戦う」 同僚は感情もなく淡々と答えた。ハルトはそれ以上の質問も浮かんで来ず、押し黙ってしまう。すると逆に同僚が訊ねてきた。 「何だ、お前は怖いのか?」 「…………誰がだよ」 ハルトは不満そうに同僚の横顔を睨む。同僚は緊張までは解かなかったが、少しだけ表情を崩し、馬鹿にしたようだった。そしてハルトの問いに対し、何も答えはしなかった。そう、それは、言うまでもないだろう、と言う、暗黙の言葉。ハルトは視線をそらしながら、呟くように答えた。 「怖くなんか、ねえよ」 「そうか。なら、武器を構えろ」 「は?」 急に声を潜めた同僚に意味が分らずハルトは間の抜けた声を上げた。今の今まで表情を崩していた同僚は、既に殺気のこもった瞳でスコープを睨みつけていた。まさか。彼の命令の意味が何となく分り、ハルトは急いで同僚と同じようにライフルを構え、スコープでガラスのない窓の外を見た。 「予定時刻通り、とはいかないようだ」 同僚が呟いた。 スコープで辺りを見渡してみる。同僚の見ている景色が分らずに、ほんの少しの間、スコープは彷徨ったが、ある一点でハルトは彷徨う景色を止めた。崩れた建物ばかりが並ぶ通り。瓦礫が散らばっていかにも歩きにくそうなそこを、一人の軍人が歩いているのが、十字線の向こうに見えたのだ。顔までは確認できないが、戦闘服の色から敵軍所属と言うことだけは確認できた。ハルトの鼓動が意味もなく跳ねた。 「あいつが……」 おまけに声まで震えている。 「ターゲットだ」 同僚はいたって冷静だった。しかしその後、ごくりと喉が上下する音が聞こえた。ハルトと同じように、本当は鼓動が叩くほど緊張はしているのかもしれない。彼は時々、表面を装う時があるから、もしかしたら強がっているのかもしれない。ハルトはそんな無駄なことを思った。しかし同僚は、もっと無駄なことを考えていたようだ。 「あんな姿を見ていると、散歩しているみたいだな。そんなにアレを信用してるのか」 そんなことを言う間に引き金を引いてしまえばいいのに、どうやら躊躇している部分もあるようだ。分らなくもない。あんな軍人の様子では、逆に警戒してしまう。軍人はまるで、散歩を楽しむように余裕綽々で通りを歩いているのだ。自軍の領域とはいえ、あの余裕ぶりは異常だ。しかしその余裕の理由を二人とも知っていた。あの軍人には最強のガードがあるのだ。 軍人はこちらの情報で言えば、毎日十三時三十分頃、この辺りの見回りしている担当らしい。この一帯はキャンプ村も近いことから、奇襲されることが多いと言うことからだろう。事実、多かった。何かとつけて、ハルトの国はこの辺まで侵入して奇襲し、戦争を何度も勝利で終わらせたことがある。しかしある時を境に、ハルトの国はぱったりとこの辺まで侵入して奇襲することをやめてしまった。そのある時と言うのは、あの軍人がこの辺りの見回り担当になってからだった。それだけ今回の任務は危険なのだ。 そういうことから、二人とも、引き金を引くタイミングを計るふりをして、躊躇していた。 「やめるんだったら……今だぞ、ハルト」 「誰がやめるかよ。言ったろ、怖くないって。怖がってんのは、お前なんだろ」 「ふざけるな」 「…………じゃあ、撃てよ」 「…………お前こそ、今やっと構えたライフルは飾りか?」 「……」 「……」 埒が明かない、声を潜めた会話が続き、停滞した。そして二人同時に深い吐息を一つ。先に決意を固めたのは同僚だった。 「仕方がない。同時にやればいいんだ」 ハルトは横目で同僚を不機嫌そうに睨む。 「仕方がない? それは俺の台詞だよ。……せーので、だかんな」 「ああ」 二人は標的に十字線を合わせた。そして 「「せーの」」 同時に引き金の指に力を入れようとする。その時だった。 「!」「え?」 銃声はいつまで経っても聞こえてこなかった。中途半端に引き金の指に力を入れたまま、ハルトと同僚はスコープを驚愕の眼差しで覗いていた。 「手を……?」 ハルトが声を潜めるのも忘れて呟いた。同僚が信じられないと言う顔で頷く。 「ああ…………振ってる」 十字線の向こうの軍人とは、スコープ越しで目が合っていた。そして彼はまるで友人にでも合ったように手を振っているのだ。これが驚かずにいられようか。 少し平常心を取り戻し、同僚はライフルをしまい、壁に隠れた。ハルトもそれに従う。 「ばれているのか?」 「まさか、そんなはずねえって!」 「しかし、こっちを向いているのは確かだぞ」 「……不気味な野郎めっ」 壁に隠れ、軍人の姿が見えなくなると、ハルトはなぜだか安心した。けれどどくどくと、うるさいほどに鼓動が鳴っている。今はそれを抑えるのに集中した。しかしそれは邪魔されて叶わなかった。 「そこの建物に隠れていらっしゃるお二人さーん、そこにいることは分ってますよー」 「!」「な……っ」 壁の向こうで、人のよさそうな声が聞こえてきた。もちろん、ハルトのものでも同僚のものでもない。あの手を振る軍人のものだった。建物に隠れていらっしゃるお二人さんと称された内の一人らしいハルトは、心臓を鷲掴みにされた錯覚を覚えた。もう片方である隣の同僚は、いつもの冷静さからは想像できないほど酷く驚き、恐怖を滲ませた表情を貼り付けている。軍人の声は呑気なものだったが、辺りは空気がまるで固まってしまったように重い緊張感に包まれていた。 「何でばれたんだ……っ!」 「俺が知るかよ!」 そこにいることがばれていても、二人は声を潜めて話した。無駄なことと分っていても、心のどこかで「あれ? 勘違いだったかな」と、立ち去ってくれるのを願っていた。少なくともハルトは。しかし軍人は、まるでハルト達が丸見えだというように、勘違いだとは思ってくれず、もちろん立ち去ってもくれなかった。それどころか、更に穏かな口調で言ってくる。 「出てきた方が、身の為じゃありませんかー? 奇襲なのか、それとも私の暗殺なのかは知りませんが、出てこないのならこちらから向かいますよー。死にたいのなら、そのままで構いませんが」 「ふざけたこと、言いやがって」 軍人の言葉に、隠れながらもハルトは悪態をついた。同意を求めようと同僚を見てみる。しかし同僚は答えられそうな状況ではなかった。目は限界以上に見開き、微かに体が震えている。そして搾り出すように 「無理だ…………殺せるはずが、ない…………」 自身が普段一番嫌悪する、弱気な言葉を譫言のように繰り返していた。その瞬間、ハルトは冷静に彼が使えないことを理解した。そしてそんな冷静な自分に正直驚き、なぜだかは知らないが、少しの勇気が湧いた。人間、極限状態を超えてしまうと何も感じられなくなってしまうらしい。それは平常心に近い状態で、それでハルトは再びライフルを構えることが出来たのだ。 「おいおい、馬鹿言ってんじゃねーぞ。俺は死にたくないかんな」 「ハルト……お前、何を」 震える声で同僚が訊ねた。しかしハルトは答える前に引き金を引いた。同僚は「待て!」と声を潜めるのも忘れて叫んだが、遅かった。 緊張感で固められた雰囲気の中を、乾いた銃声が一つ、貫いた。 「君達に、ある特別任務を与えよう」 呼び出され、上官にそう切り出された時、二人の心の中は後悔で一杯であった。目立ち過ぎたと。 同僚とハルトは、どの同じ階級の兵士よりも目立っていた。その実態は、目立ちたがり屋のハルトが、強引に同僚を引き連れて行動に及んでいるだけなのだが。とにかく、彼らはまさに名コンビならぬ迷コンビであった。 その例として一週間前の出来事がある。あれは確か、ハルト達のエリアを指揮している上官が負傷した時のことだ。ここで一般の兵士ならば、代理が来るまで待機するのが普通である。しかしハルト達は普通の兵士ではないので、それには従わなかった。勝手に最前線に躍り出たのだ。ハルト曰く、「俺、短気なんだよ。待ってられるか」らしい。同僚は普通の兵士と同じ行動をとりたかったのだが、やはり強制的に連れて行かれた。 そうして代理の指揮官がやって来た時には、時既に遅し、ハルト達は負傷――――は一つもしておらず、むしろ奇襲に来ていた敵国の戦車などが粉々になっている有様であった。ハルトは勝手に対戦車用のバズーカを持ち出し、同僚に使わせていたのだ。それでも二人ともに傷一つないというのは、きっと悪運が強いからであろう。 このように二人は、いつも何かをやらかしているのだ。軍のお偉いさん達はそんな二人の行動にいつもやきもきしているが、特に二人に処罰は与えてこなかった。結果的にどの行動も、軍にとっては利害で言えば、利を彼らは与えてくれるからだ。 しかし、そろそろ勝手すぎたのだろう。どうしても与えることが出来なかった処罰は、恐らくこの特別任務が代わりとなっているのだ。そう、この任務は絶対であり、そしてかなりの危険が伴うのだ。妙に愛想のいいこの上官がいい証拠である。今まで誰もしなかったことを二人にさせようとしている。その内容は言わずとも、分っていた。 「アレ……がらみですか?」 面倒臭そうなハルトに対し、同僚は相も変わらず毅然とした態度で上官に訊ねた。と言うよりは、確認にほとんど近しかった。上官も愛想のよさを続けながら、曖昧に答える。 「まあ、そんな所かな」 ハルトは心の中で「はっきり『はい、そうです』って言えばいいのによ」と呟いた。口に出ないように必死に我慢している。でないと、今以上に面倒臭いことになるだろう。ただ、顔には出てしまっているようで、上官は 「何か言いたいことがあるのかね?」 と、いささか不機嫌そうにこちらに視線を向けてきた。隣の同僚が、容赦なく腿の辺りをこっそりとつねってくる。 「いえ、何もありません」 ハルトは何事もないように、笑った。腿の痛みは消えた。 上官は「そうか」と、一つ咳払いをしてから、それから話を続けた。 「まあ、そう怖がることはない。アレがらみといっても、君達が直接に手を下すのは、普通の人間だ。アレを創り出し、そして操作をしている、な」 アレとは、現在この戦争で最強の武器のことであった。 二十年ほど、この塩の砂漠を懸けた戦争は続いているが、実はハルトの国は一度も負けたことがなかった。当然の答えだ。敵国は宗教に囚われた、いわば技術の遅れた国。技術も巨大な軍事力もあるこの国に、勝てるはずなどないのだ。毎回、敵国を打ちのめして終戦を迎え、そして信仰者のプライドなのか再び無駄だと言える宣戦布告をされ、戦争を始める。それの繰り返しであった。 しかし、今回の戦争で敵国は救世主を味方につけていた。 ?戦人形?――滅多にその名前では呼ばれず、敵であるこちらの国ではアレと呼ばれている最強の武器。人間の形をしているらしいが、それは精巧に作られた機械仕掛けの人形らしかった。技術の遅れたあの国が、どのようにしてこの国でさえ持っていないような技術を手に入れたのかは定かではないが、それは確かに最強であった。 まずどんな攻撃も受け付けない。ライフルもバズーカも、戦車の大砲でさえも。受け付けないと言うよりは避けるのだ。それは人間もそしてこの国が持っている技術で作られた機械でさえも真似できない、俊足を持っている。 そして、何より残虐な性格を持ち合わせている。殺すことを躊躇わない。普通、武器と言うものは人が扱い、人の性格が出るものである。人が殺すことをを戸惑えば、武器も動作を鈍らせる。人は人を殺す前、必ず一抹でも戸惑い、躊躇うのだ。しかしそれは人の意思ではなく、確実に自分の意志で動いていた。そして一抹の戸惑いも躊躇いも見せず、人をまるで小さな害虫のように次々と殺していくのだ。 厄介なのは、死んだふりをして逃れようとしても、それは人間の生死を簡単に見分けられるらしい。虫の息で生き残った兵士でさえも、止めを刺す。それと対峙した兵士は、一人も帰ってきた者はいない。これだけの情報が入ったのは、敵国にスパイとして潜入していた兵士のお陰だったが、その兵士自身、それに恐れをなして寝返ってしまった始末だ。 そんな救世主、?戦人形?のせいで、こちらの兵力はみるみる削られていき、この国は今、完全敗北と言う四文字が人々の頭の中に浮かんでは消える状況であった。 二人は事実上、その?戦人形?と対峙する命令を受けたのだ。 そんなことが分らないほど馬鹿ではないと、ハルトは気づかれないように鼻で笑い、そして言った。 「操作者に攻撃、ですか? ……アレは操作者が攻撃されそうになった時、戦闘スイッチが入ると聞きましたけど?」 上官は面倒臭そうに、横目でこちらを見た。 「それは分っている。だから今回は、正面から行くのではない」 「隠れて狙うと? そんな簡単なことで解決できるのなら、俺達は今頃、敗北を恐れることなんてなかったと思いますけど?」 当たり障りのない口調で、しかし明らかに棘のある言葉でハルトは対抗した。不思議なことに、隣の同僚にはつままれることはなかった。 ?戦人形?は自分の意思で確かに動いてはいるらしいが、そうなるまでにはある条件をクリアしなければならないらしかった。その鍵を握るのが?戦人形?の創造主であり、操作者でもある敵国の軍人であった。 彼はいつも、銃弾が飛び交う戦場の真ん中に立っていると言う。?戦人形?を知っている兵士は沢山いたが、その操作者である軍人を知っているものはいない。まして敵の顔を一々確かめて攻撃するような余裕が、戦場の最前線にあるわけがない。若い兵士などは、そんな操作者を見つけるとすぐに銃口を向け、発砲するのだ。それが?戦人形?の戦闘スイッチであると知らずに。 ?戦人形?は創造主であり操作者が傷つきそうになると、武器へのスイッチを入れるのだ。それは一種のボディガードのような存在だが、戦場にいるのだからと、武器と呼ばれている。 そんな人間を暗殺しろと言うのだから、成功すればこの戦争の勝利に大いに貢献した英雄となれるが、失敗すれば確実に死ぬという極端なものだ。もっと言えば、失敗する確率の方が高い。ハルトは死ぬのは真っ平だった。 「どうせ俺達は、捨て駒なんでしょう? そう、はっきり言えばいいじゃないですか。?戦人形?の攻略のための実験台だって」 「言い過ぎだ」と言いたいのか、同僚がこっそりと叩いてきた。 上官は鋭いハルトの言葉を、依然続く愛想のいい笑みでかわし、どんな都合のいい話でも分ってくれそうな同僚に向き直った。 「君達には期待しているんだよ」 「それはそれは……光栄です」 同僚はにこやかに言った。上官はほんの少しの安堵を滲ませ本当に嬉しそうに、表情を和らげた。 「なあに、大丈夫だ。君達なら、必ず英雄になって戻ってこれるさ」 そう、同僚の肩を叩きながら、自身ではどれほど無責任な言葉を吐いているのか、理解できていないようだった。 死んでたまるか。引き金を引き終わったハルトは、そんな思いで一杯であったが、スコープの丸い視界の中にまるで光のような速さで軍人の他にもう一人が現れ、見えてしまった時、思いはがらがらと音をたてて崩れ去った。 軍人は倒れることはなかった。それどころか、銃弾は彼に届いてさえいなかった。では届かなかった銃弾はどこへ行ったのか。それはスコープに突然写ったもう一人が知っていた。 それは少女だった。長くて淡い色の髪を横で二つに結び上げ、赤と黒のゴシックロリータに身を包んでいる。一見すれば十二、三才ほどの年恰好だ。そんな彼女は軍人の前で真っ直ぐと手を横に広げ、まるで守るような姿勢をとっている。いや、守っていた。彼を狙った銃弾は、少女の額に穴を開けていたのだ。 それで倒れてくれれば、?普通の少女?だったのだろう。しかし彼女は?普通の少女?ではなかった。少女は倒れることもなく、それどころか鮮血さえも流してはいなかった。銃弾が貫いた額は穴が開いただけ。 そう、彼女こそ?戦人形?なのだ。そう理解した時には既に遅かった。 同僚は呆然と窓の外を見ていた。スコープを覗かなくとも、軍人と?戦人形?はかろうじて見える位置にいる。銃声が響いたのにも関わらず、倒れた者がいないのを確認するのには十分だった。 「……何てこと、してくれたんだ……」 同じく呆然とスコープを覗いているハルトの胸倉を乱暴につかみ上げる。 「お前は! 何てことをしてくれたんだぁああっ!」 「……」 「落ち着けよ」とは言えなかった。何度も何度も揺さぶられ、ハルトはされるがままだった。何てことをしてしまったのか。自分が一番、分っていないのだ。完全に取り乱した同僚は、敵の前だというのに敵自体には見向きもせず、味方のハルトに殺気を放っていた。 そしてもう一言、同僚がハルトに向かって何かを言おうとした時だった。 「あのー、お取り込み中失礼ですが」 間近に、恐ろしい声が聞こえた。二人は同時に、声の方向を振り向いた。そして同時に、恐怖に動きを止めた。 「私がいること、忘れないで下さいね」 軍人が、にっこりと笑んで、二人とは二メートルほど離れた所に立っていた。もちろん隣には、?戦人形?。ハルトは頭が真っ白になった。どうして、なぜ、あのスコープにようやく写るほどの距離にいたあの軍人が、一瞬の内にそこに立っているのか。彼の後ろには、入り口はない。この空間に入るには、ガラスのない窓か、その隣にある、ドアの外れかかった入り口から入るしかなかった。どちらにしろ、二人のすぐ横を通らなければ、その位置に立つことはできない。しかし二人とも姿はおろか、気配さえ察知することも出来なかった。その現象はまるで手品のようだったが、そんな楽天さは、今はどこにもない。 ハルトは胸倉を掴んでいた同僚の手を振り払い、それから腰に装備してあったホルスタから素早くハンドガンを取り出し、構えた。銃口を間近に向けられても、軍人は笑顔を崩さなかった。代わりに、?戦人形?が動き出そうと体勢を低くする。しかし軍人はそんな彼女を片手で制した。 「そんなに怯えなくても大丈夫です。この子には攻撃をさせませんから」 「なんの、つもりだ……」 「なんのつもりって、私はただ、降参して欲しいだけですよ。私もね、快楽殺人者じゃないんで、殺す気がない時に襲われても、そうそう殺してやる気は起きないんです。それに貴方がたは二人だけのようですし。たった二人を相手にこの子だと、荷も重いことでしょう。公平にいきたいと言うことです」 「ふざけんな!」 完全に呑まれていた。軍人が放つその得体の知れない雰囲気に。彼は快楽殺人者ではないと否定したが、それ以上に異常だった。少しの間、軍人はハルトを説得するような目で見つめていたが、構えたハンドガンを下ろす様子がないと分ったのか、混乱状態にある同僚の方に向き直った。 「貴方はもう、限界みたいですね。どうです? 降参しませんか? 楽になれますよ」 「…………」 まるで、お菓子で釣り、ペットに芸を仕込む人間のような甘い声。精神が限界に来ていた同僚には、あまりにも酷な声だろう。 ハルトは横目で、半ば祈るような気持ちで同僚を見た。今の彼なら、両手を上げかねない。どうか彼が、いつもの冷静さを取り戻してくれるよう、祈り続けた。 しかしその願いも空しく、同僚は動作でその意思を伝える。 「お、い……」 両手をゆっくりと上げた、降参の意思を伝えるポーズ。ハルトは奈落の底に突き落とされたような錯覚を覚える。その錯覚に耐えながら呼びかけるハルトの声を無視するように、同僚は軍人の方へと歩き始めた。ハルトは叫んだ。 「待てよ! お前、自分のしていることがどういうことか、分ってんのか!」 「……その台詞、そのまま返してやる、ハルト」 同僚は、振り返る。 「死にたいんなら、一人で死んでくれ。最初はどうにかなると思っていたが……俺は分った。足掻いても、今回は俺達の負けだ。多分、これからも…………それなら、利口な道を選ぶよ」 いつもどおりの、冷静な声だった。ハルトは言葉を失った。 同僚の肩越しに微笑み続ける軍人は、実に嬉しそうな声で述べた。 「確かに、利口ですね」 そして、隣の?戦人形?に目で合図を送る。「捕らえろ」そんな風の意味だろう。?戦人形?は指示通り、動いた。同僚の許へ歩み寄る。今までで最も近い位置で?戦人形?の姿が見える。ハルトは気づかれないように目だけを動かして、彼女を見た。一見すると、どこかのお嬢様にも見えなくない少女の、幼い瞳は、髪と同じく淡い茶の色を冷酷に放っていた。無表情だったが、それが逆に恐怖を覚えさせた。その表情を脳裏に焼き付けて、視線を軍人の方へ滑らす。彼もまた、?戦人形?と同じく、恐ろしく冷たい目をして、笑っていた。 次の動作を求めるように、?戦人形?は軍人を振り返った。軍人は頷き、手招きをする。?戦人形?は同僚の戦闘服の裾を掴み、軍人の方へと歩き始めた。同僚は素直に従っている。?戦人形?が動き始めると、軍人も動き始めた。一、二歩、二人との距離を縮める。同僚が完全に裏切っていく様子を、ハルトはただ、黙って見つめることしか出来なかった。 ?戦人形?が無事、同僚を軍人の許へ届け終わった。軍人は最早、不気味と言うには陳腐すぎるほど不快に、口の端を上げた。 「貴方は、利口だ。長いものには巻かれろ……その教えをよく守っている」 軍人はまた、?戦人形?に目の合図で何かを命令した。同僚に背を向けていた?戦人形?は、突然、同僚の方を向く。何が起こるのか。見ていただけのハルトにはよく分らなかった。 「ですが……」 軍人が急に、声のトーンを落とした。 「甘いですね」 その刹那、 パンっ まるで小さい風船が割れたような、乾いた音がした。 「ア……?」 同僚が短く奇妙な声で鳴いた。破裂音が銃声、彼の鳴き声が断末魔と理解するのに、ハルトはニ、三秒掛かった。それはあまりに遅すぎる時間だった。どう。鈍く、重い音をたてて、同僚は倒れた。今まで同僚の影に隠れてしまっていた?戦人形?が、その全貌を現す。彼女は右手には、少女が持つにはあまりにも不釣合いな、ハルトが握っているものよりは少し大きめの型のハンドガンが握られていた。たった今、火を吹いたらしく、銃口からは微かな硝煙が漏れている。 額から後頭部へと銃弾を貫通させ、恐怖を貼り付けたままの死に顔を隠すほどに鮮血は顔面に塗りたくられ、頭の下にも大きな血溜まりを作った無残な同僚の姿。軍人はそんな屍を見下ろし、吐き捨てた。 「降参して、生きれるとは思わないことです。私は卑怯者が嫌いなんですよ。……まあ、その利口さに免じて、楽には、してあげましたが」 「…………貴っ様ぁあああっ!」 ハルトはばらばらに理解していた欠片をようやく一つに纏め上げ、そして一気に頭に血が上った。迷わず、握り締めていたハンドガンの引き金を引く。 しかし先程のライフルと同じく、銃弾は軍人まで届かず、?戦人形?が俊足を以って自ら被弾した。今度は左肩に穴を開けた。痛みを感じないらしい?戦人形?は、撃たれた直後とは思えない速さで、右手の今、同僚を撃ったそれでハルトを狙う。ハルトは本能的に左へと飛んだ。しかし、ワンテンポずれたようで右肩に焼けるような痛みが走る。 「い……っ」 その痛みは初めて経験したものであり、意識を手放してしまいそうだ。奥歯をかみ締めて、何とか踏みとどまる。しかし逃げようとした足は受けた銃弾の衝撃で絡まり、膝が折れ、そのまま躓いてしまう。それを?戦人形?が見逃すはずはなかった。すかさず、もう一発を発射させようと身構える。立ち上がり、避ける時間はなかった。 しかし 「やめなさい」 静かな軍人の声が、?戦人形?を制した。するとぴたりと?戦人形?は構えた姿勢を解いた。 「私はまだ、この人とお話があります。殺してはいけませんよ。しばらくは私を守らなくても結構です」 ?戦人形?は頷く。そして何事もなかったかのように、くるりと向きを変えて軍人の隣へ戻った。 戻ってきた?戦人形?を軍人は優しく頭を撫で、褒めた。?戦人形?はたった今貼り付けていた無表情と打って変わって穏かな少女の表情を浮かべていた。痛みに耐えながら、ハルトはその奇妙さに我が目を疑う。?戦人形?はただの殺人人形ではないらしい。軍人はそんな少女の頭を何の疑いもなく二、三度撫でてやってから、それからこちらを見て、人のいい笑顔を向けた。 「貴方は余程勇敢なのか、あるいは怖いもの知らずなんでしょうねえ。この子の姿を見て、まず私に攻撃しようなんて考えませんよ」 「黙れ、外道めっ!」 「まあ、落ち着いて下さい。貴方が降参しないのは、よく分りました。私も説得を諦めましょう」 軍人はそうあっさりと述べた。意外な言葉に、ハルトは眉を顰める。何か、裏があるのは明らかだった。 軍人は隣の少女を見やった。そして掌を出す。何かを要求しているようだった。少女は無言の会話でそれが何かを悟り、右手に未だ握っていたハンドガンを、出していた掌にそっと乗せた。軍人は「ありがとう」と、優しく言う。その優しい口調のまま、会話の対象をハルトへと変えた。 「今、思いついたんですけどね。ゲームをしませんか? 彼女と」 「?」 ハルトが疑っていた裏とは、どうやらこのことのようだった。しかしまだ、完全に明らか とはなっていない。ゲームとはまた抽象的な表現である。彼の軽い口調で推測すれば、まるで「トランプがあるから、ババ抜きでもしようか」と言っているように楽しそうなものを想像してしまうが、この状況、相手、そして今、彼女から受け取ったものを見ていれば、どうやらそうでもないらしい。むしろ、恐怖のゲームかもしれない。ぐるぐるとそんな考えを巡らせながら、あえて、ハルトは何も返しはしなかった。軍人の眉が、困ったような八の字に変形する。 「そんなに警戒しないで下さい。先程みたいに、抵抗なく殺したりはしませんて。あれはほんの少し、ムカついただけなんですよ……あ、言い方が悪いですね。ムカついたんじゃなくて、当然の報いを与えただけなんです」 「……ふざけるな」 ハルトは低い声で、唸るように言った。それに対しても、軍人は動じもしない。 「まあまあ。とりあえず、話を進めましょう。過去のことに囚われても仕方がないですしね。それで……えっと、ああ、そうだった。ゲームの話ですね。ルールは簡単ですよ。ただ貴方とこの子が戦うだけです。どうです? 簡単でしょう?」 簡単でしょう? 彼の口調は本当にそう言っているようだが、事実は違う。簡単なはずがない。ずくずくと鈍く疼く肩を庇いながら、ハルトは軍人を睨みつける。軍人は構うことなく続けた。 「貴方が勝てば、国の勝利はほぼ百パーセント約束されるでしょう。しかしこの子が勝てば、貴方は死ぬ。……ですが、今のままでは貴方は確実に負けるでしょうね。肩を怪我していますし、何より相手は最強の機械人形なんですから。そしてこれから話すことが、このゲームの最大に面白いところです。いいですか? よく聞いてて下さい。今の状況では不利な貴方にはある、チャンスを差し上げましょう」 勝手につらつらと話し続け、軍人は唐突に、持っていた銃をゆっくりと上げた。そして何を考えているのか、銃口を自らのこめかみに向けたではないか。流石にハルトも「ちょ……」と、止めようとした。しかし彼がその言葉を聞くはずもない。笑顔は固まったまま、ルール説明の続きを語る。 「今から、私は死にます。彼女は私のことを父親のように思っており、これでも感情があります。私が死ねば、何らかの変化があるでしょう。それは悲しみで戦闘スイッチの制御が外れて暴走するか、あるいは攻撃を忘れて泣き崩れるかもしれません。どうなるかは……私にも分りません。ですが、変化は必ずあります。貴方はそんな彼女と戦って下さい。もしかしたら、有利になるかもしれませんし、逆を言えば、もっと不利になってしまうかもしれません。それは貴方の運次第です」 狂ってやがる、完全に。今更ながら、ハルトはそう思った。銃口を自分で向けて、死ぬつもりで、しかし笑っている。まるで死など恐れてはいないような、そんな感じ。ハルトの周りにも沢山「死ぬのは怖くない」と言う、百戦錬磨の兵士がいたが、彼らとはまた違ったニュアンスがあった。 「誰が、そんな勝負、受けるか」 ハルトは立ち上がり、はっきりと断った。彼の言葉に一点の曇りもないことは分っている。しかし常識で考えれば、そう簡単に「はいそうですか、やりましょう」と言う言葉は出てこないだろう。 「しかし、勝負をしなければ、貴方も虐殺されるだけですよ」 「……」 それもまた、真実。ハルトは迷った。この善人の仮面を被った、非常に残酷な男を信じるべきか、それとも同僚のように抵抗の術もなく、惨たらしい殺し方で死んでいくか。 考えあぐねた結果、ハルトは首を縦にも横にも振らず、軍人に訊ねた。 「どうして……こんなゲームを、俺に持ちかける?」 「いけませんか?」 人の勝手だろう、そんなことを言いたげだった。ハルトは食い下がる。 「いいとか、悪いとかは聞いてねえんだよ。俺はあんたの、真意を聞きたいんだ。……答えによっちゃあ」 と、ハルトは痛みに痙攣する右手で持っていたハンドガンを左手に持ち替え、 「自殺の前に……仇討ちにあんたを殺して、その人形も破壊する」 軍人に向けた。三度目の正直のつもりだった。 「……そんな肝の据わった人間、嫌いじゃないですよ。利口だとは思いませんが、ね」 二つの銃口が向けられている状況でも、軍人は恐怖と言うものを知らなかった。 しばらく、重い沈黙が流れた。?戦人形?は命令通り、銃口を向けているハルトに殺気も立てなかったし、軍人を守る仕草もしなかった。先程、軍人は自分を父親のように思っており、感情もあると言っていたが、?普通の少女?ならこの状況の中で、泣き出すにしろ、父親の前に立ってハルトを睨みつけるにしろ、何らかのアクションはあるはずだ。やはり、機械人形なんだな。ハルトは一瞬、蔑んだ目で?戦人形?を見た。しかしすぐに視線は、軍人に行った。 「理由は下らないことです。私は死にたい。この戦争は長く続きすぎるんです。それが私のせいだと言うのだから……とても愚かしいのです。辛いのです。だから、出来れば死にたい……それだけです」 ハルトは怒った。 パンッ、パン……! 怒りを込めて、引き金を二回引く。弾が発射される衝撃で右肩に激痛が走ったが、そんなことはどうでもいい領域に入っていた。 「お前はどれだけの人を殺してきて、そんなことを言ってんだ! 許されるかよ、そんなこと、誰が許すかよ!」 利き腕ではない左手では、上手く標的を定めることは出来なかった。三度目の正直はなく、銃弾は軍人の左頬をかすっただけ。それでも流石の軍人も笑顔が消えた。しかしそれだけではこの煮えたぎった怒りは治まるはずもない。 悲観的もいいところだ。この男のせいでどれだけの人間が死んでいったか。自分で大量殺人機械を作っておいて、こんな状況を作っておいて、それを馬鹿らしいと、辛いと言うのは、あまりに自分勝手すぎる。ハルトは知らない人間達の死を悲しむほど器用ではないが、目の前で仲の良かった同僚は殺され、そして?戦人形?に弄ばれ、ハルト自身も今、ここに立っている。こんな状況を作った人間自身がこの状況から逃げたいと言うのだ。これが腹を立てずにいられようか。 笑顔を失った軍人は、じっと、ハルトを見た。 「別に私は、許しを請うことはしません。許されなくてもいい……ただ、死にたい。貴方には、一生分らないことでしょう」 でも、と、軍人は言葉を切り、一瞬だけ?戦人形?に笑いかけた。それが何を意味しているのか、怒りに満ちたハルトに、分るはずもない。 「……貴方は一つだけ、分ったでしょう。私が殺そうと貴方が殺そうと、ゲームは始まる。貴方はゲームをしなければいけない」 「まだ、そんなことを言うつもりかよ!」 「ええ。私にとっては、大切なことですから。結局は、私は死ぬんです。貴方達の望み通りでしょう? …………もう、いいですか? 私、まだるっこしいことは嫌いなんです。いい加減、嫌になりましたよ、懺悔は。……始めましょう」 「なっ!」 それはさせないと、ハルトは軍人の持っていたハンドガンを狙う。弾き飛ばしてしまおうと思ったのだ。しかし、思うように銃口の向き定まらない。利き腕でもないし、右肩が痛み、集中を妨げる。そして怒りが何より、邪魔だったのだ。 軍人は、また笑みを貼り付けた。 「ご健闘、お祈りしています」 パァ……ァン…… 銃声は、まるでスローモーションのように、やけにゆっくりと響いた。 ばたむ。同僚が倒れた時よりは、幾分か軽い音と共に、支える力を失った軍人は倒れ、屍となった。辺りは、不気味に静まり返った。 「……………………え?」 最初に声を上げたのは、意外にも?戦人形?だった。今まで散々沈黙を守っていたくせに、隣に今まで立っていた人間が突然の銃声と共に倒れると、何かのスイッチが入ったように表情を変えた。恐怖を感じさせる無表情から、不安そうな少女の表情に。 「くそ……っ! 畜生ぉっっ」 そんな少女の変化に構わず、悔しさにハルトはガクンと跪き、硬い地面を力一杯、拳で叩く。しかし、ふと目の端で捉えた何かの動きに、ハルトは俯きそうになった顔を上げた。 「ぱぱ………ぱぱ?」 捉えた動作は、少女が軍人の顔を見るために、跪いた動きだった。少女は震える声で名を繰り返し呼びながら、軍人の死に顔を恐る恐るのぞき込む。 「ぱぱ、ぱぱ……ぱぱ」 少女はまるで眠った人を起こすように、右手で軍人の死体を何度も揺さぶった。しかし即死の人間が、目を覚ますはずもない。こめかみから溢れ出す鮮血が、同僚の時と同じように地面を這い、大きな血溜まりを作っていった。その触手が、跪く少女の体を支えていた左手に伸びる。それを感じたのか、少女はふと、左手を見下ろした。 「…………?」 真っ赤にそまった指先。恐らく彼女には見慣れたもの。けれど、父親のように慕う人のものを見るのは、初めてだろう。見ないために、今まで守ってきたのだから。少女の不安そうな表情が、みるみる絶望への色に染まっていった。 「いや……ぁ、あ……ぱ……いやあああぁあっ!」 劈くような少女の悲痛な声が、狭い空間で一杯になる。少女は両耳を塞ぎ、まるで必死に軍人の死を否定するように首を振り続け、叫び続けた。 これが、軍人の言う変化なのだろうか。呆然とそれを見つめていたハルトは唐突に思った。 『それは悲しみで戦闘スイッチの制御が外れて暴走するか あるいは攻撃を忘れて泣き崩れるかもしれません』。 もしそうだとすると、答えは後者だった。少女は泣き崩れ、攻撃の術を忘れた。――とすれば、それは即ち、ハルトが有利な立場に立ったということ。ハルトは未だ左手に握ったままのハンドガンを見た。しかしそれが使えないことは、すぐに気づいた。少女は既に額と左肩に被弾しており、血の流れない穴をこしらえているが、今、何の問題もなく動いている。銃弾で彼女を破壊することは不可能だ。 では、どうすれば破壊できるのか。どうしたら、勝利できるのか。 「あぁ……あ」 ハルトは少女に視線を流した。跪き、顔を二つの手で覆い、泣き喚く少女が?戦人形?として、攻撃してくる気配はない。だが、それだけである。ハルトは未だ、勝利していない。そのまま視線を軍人の、そして同僚の死体に滑らせていく。苛立たしく思った。 このままではどうしようもない。 「………っ」 ハルトは少しの痛みに耐え、右肩を左手で覆って、動いても痛まないようしてから、立ち上がった。ゆっくりと、少女へ近づく。少女は気づかないのか、はたまた無視をしているのか、反応さえしない。一歩、二歩。脈動と共に疼く肩に歯を食いしばり、泣き喚く少女に手が届きそうなところまで近づいていく。 「いや……や、ぱぱ、ぁ……」 少女は振り返りもしなかった。ハルトは左手を傷口から離し、少女に手を伸ばす。そしてその震える肩をしっかりと掴んだ。少女はようやく、振り向いた。その顔はは泣き喚いた割りに、涙で一つも濡れてはいなかった。泣く機能はあっても、涙を流す機能は持ち合わせていないらしい。ハルトはそんな少女を不憫にも思った。しかし、少し離れた所に倒れている真っ赤な死に顔を持った同僚の姿を見ると、その気持ちもすぐに吹き飛んだ。彼を殺した張本人を睨みつける。 「どうやったら、お前は死ぬんだよ」 「…………」 言葉が通じないのか、まともに話をする機能がないのか、少女は何も返しては来なかった。ただ、ハルトを見上げ、震えている。それが恐怖なのか、悲しみの名残なのかは分らない。 「……お前が人間じゃないなら、人間に作られてんなら、どうしたら……壊れてくれるんだ。もういいだろ。お前の父親、死んだんだろ? だったら子供らしく、大人しく死んだらどうなんだ!」 なぜだか、口調が強くなる。それは悔しかったのかもしれない。焦りだったのかもしれない。このまま、永久に勝てないのではないかと言う。 この戦場に女子供の区別など、ありはしない。死は平等だった。ハルトもそれに従い、子供の前で母親の頭を散弾銃で吹き飛ばしたこともある。丁度その時の泣き声と、少女の叫び声は似ていた。あの時ならば、すぐに子供も母親のところへ送ってやったが、目の前の少女は?普通の少女?ではない。この少女にだけは、平等の対象には入らない。死なない。勝てないかもしれない。 そんな負の感情が心の底で渦巻いている時だった。少女はそれを感じ取ったように、小さな血まみれではない右手を、肩に乗せてあったハルトの手に添え、握った。 「ひっ……」 ハルトは反射的に危険と恐怖を感じて、後退しそうになるが、少女は別にその手の骨を折ったり、何か攻撃をする様子はなかった。代わりに、握った手をどこかに導く。一先ず危険でないと知ったハルトは素直に従うことにした。 少女はハルトの手を自分の右耳の後ろ辺りまで導き、それ以上は動かなかった。ハルトは何かあるのかと指先を動かし、探る。そして驚愕した。 丁度右耳の後ろ、くぼんだところの少し上。それは大きさで言えば黒子と思われるものだった。しかしすぐに、黒子ではないと分った。なぜならば、それは人間の持ち得る感触ではなかったからだ。つるつるとした感触で、硬い。プラスチックか何か、そんな材質で出来ているようだった。言ってみるなら、それは何かのスイッチボタン。そう言った方が合っているような気がした。しかしそれは、異常な話だ。ハルトはこれが何なのかと聞くのが、酷く恐ろしく、何も言えなくなる。 少女はまるで、ハルトの反応を見守るようにじっと見つめていた。ふと、目と目が合う。まともに見た少女の表情は、泣き顔にも見えた。涙は流れてはいないが、本当に泣いているのだろうか。助けを請うているようにも見えた。どうしよう。ハルトは耳の後ろの異常な存在を確認したが、しかしそれをどう利用するかは分ってはいない。そんな風に戸惑っていると、少女の手が動いた。そして異常な存在に触れていたハルトの手をまるで包み込むようにする。何をするつもりだろうか。不安もあったが、少女の表情は今すぐ人を殺してしまうような表情にも見えなかった。ハルトの手の裏側をやんわりと包み終わった少女は、小さく口を開いた。 「し……に……た……い……」 「え?」 小さくも、切実な言葉。それが聞こえたような気がした。聞き間違いか。そう思った刹那、少女の包み込んでいた手が、ハルトの手を強く押してきた。 「!」 耳の後ろのボタンが、簡単に深く落ち込む。人間には有り得ない感触。息を飲んだ。 少女の力ががくりと失われた。包んでいた手がぽとりと落ち、そして先程の軍人のようにばたりと、倒れた。あっという間の出来事であった。 段々と落ち着いていく頭の中で、ハルトは唐突に理解した。今、自身が押したものは、少女を殺すためのスイッチボタンだったのだと。そして自分は今、勝ったのだと。 沈黙が辺りを支配した。 * 「……あれは、全部失ってしまうスイッチだった」 残り少しだったココアを飲み干してしまって、マスターは言いました。 「彼女は人形だから、壊れない限りは死ぬことはない。しばらくして……彼女は目覚めたよ。全て、忘れてね。彼女は赤ん坊に戻ったんだ」 「確か、それが不憫で……?戦人形?さんを、引き取ったんですよね?」 私はまるで、マスターが話すその先が分っているように言ってみました。いいえ、実際は分っていました。もう、何度も聞いた話ですから。マスターは冗談交じりに睨んできました。 「やっぱり、話していたじゃないか」 「えへへ、すいません」 だってこの話、好きですから。マスターは「まあ、いいが」と許してくれました。 「……しかしな、本当は不憫とか、そんな同情で引き取ったわけではないんだよ。私は、そんな器の大きな人間じゃない」 「どういう意味ですか?」 いつものマスターの話にはない言葉に、私は不思議そうにマスターの顔を覗き込みます。マスターは自分に対して、嘲笑を浮かべていました。 「ただ私は、背負うものが欲しかった。それだけだよ。何かを背負っていれば、罪を償っている気になれるからね……私はそんな、小さな人間なんだ」 「そんなことないですよ」 私は正直に言いました。マスターは決して小さな人間ではありません。確かに、マスターはご自身がお書きになった本に沢山器の大きな人間が言うようなことを書き並べています。それは全て嘘かもしれません。しかし、マスターは前にこんなことを言ったのです。 『彼女を連れ帰った理由は、私が未熟だからだったんだ。ココアのように、ね。それだから彼女を可哀相とでしか見れなかった。本当に、それだけなんだ』 その言葉は、確かに嘘ではありませんでした。マスターは嘘つきだったかもしれませんが、嘘をつくのは下手くそです。それは、本当の言葉でした。マスターはただの優しさで?戦人形?を連れ帰ったのです。 私は思うのです。可哀相だと思うことは、決して未熟でないと。人は優しさや同情でどうにかなるとは思っていません。むしろ甘いのでしょう。けれど私には、マスターが持っていたのはそれだけじゃないと思えてくるのです。 「マスターは本当に、立派な英雄さんだったんですよ」 「……やめたまえ。恥ずかしくなるよ」 マスターは、恥ずかしそうに顔を顰めました。 お茶の時間が終わって、マスターは居眠りを始めてしまいました。きっと、長いお話をしたせいで疲れたのでしょう。安楽椅子に座ったまま、ことりことりと船を漕いでいます。私は、夕飯の時間まで起こさないことにしました。 さあ、これから夕飯の買い物です。今日はマスター好物のコーン入りシチューにしようと思います。話を聞きたかったとはいえ、マスターに嘘をついてしまいましたし、そのお詫びに、ね。 PR ![]() ![]() |
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